マスカケ線に願いを
「え……っと?」
小夜さんは困ったように私を見た。
コウはにっこり笑う。
「ほら、女二人だと夜道は危ないし」
「そうそう、男は狼だからな。いつ狙われてもおかしくない」
そうユズが続ける。
「……素直に一緒に来るって言ったらどうです?」
「え、杏奈ちゃん……?」
私の言葉に、小夜さんはうろたえ、漫才コンビはにっこり微笑んだ。
「そうこなくちゃ、さすが杏奈ちゃん」
「やっぱ杏奈、わかってるじゃないか」
ユズは私の、コウが小夜さんの背中を押して、さっさと事務所を後にする。
小夜さんは真っ赤になって、コウを見ていた。
「どこで食べる予定だったんだ?」
「あんずっていうお店。雰囲気もいいし」
「ああ、いいとこだよな」
ユズに答える私。その会話を聞いていた小夜さんが少し驚いたような顔をした。
「へえ、結構仲良くなってるじゃんか。いつのまに敬語使わなくなったんだ?」
「これは、ユズへのお礼なんです」
「うわ、俺には敬語とか、杏奈ちゃんほんっとつれないね」
コウは笑って、そう言った。そしてユズに向かう。
「おい、ユズ。俺も二人の関係に貢献したんだから、奢れよ。ねえ、岩山さん?」
「え?」
コウにつかまった小夜さんは、ライオンに睨まれた子猫のように小さくなって、真っ赤になっていた。
「でも、蓬弁護士と杏奈ちゃんは付き合ってないんだよね?」
「杏奈がなかなかうんって言ってくれないからな」
苦笑するユズに、私は肩をすくめた。