マスカケ線に願いを


 本当は、随分迷ってる。
 このまま、素直にうんと言ってしまいたいけれど、やっぱり怖い。
 ユズのこの雰囲気、本当に凄いから。
 ユズにのめりこんで、一人では生きられなくなってしまいそうで怖い。

 そうなってから、私がユズに捨てられたら……生きていけない。


「幸樹、バイクどうする?こっち乗ってくか?」
「いや、先に行ってる。お前安全運転しろよ」

 コウは自分のバイクのところへ行って、私達はユズの車に向かう。ユズの高級車を見た小夜さんが目を見張っていたのがわかった。

「あ、杏奈ちゃんは助手席に座って」
「でも……」
「いいからいいから」

 そういう小夜さんに押される形で、私は助手席に座る。

「よし、んじゃ行くか」

 運転席に座るユズと助手席に座る私を、小夜さんがニコニコしながら見ているのがわかる。

「ねえ、杏奈ちゃん、とってもお似合いよ、二人とも」
「そ、そうですか?」
「ええ、これだけの美男美女カップル、なかなか見れないわ」

 小夜さんの言葉に、ユズが笑う。

「俺は美男なわけ? 嬉しいな」
「蓬弁護士も久島弁護士も凄い人気ですよ。うちの同僚も近づきたいって思ってる人多いですし! 杏奈ちゃんも下手に嫉妬されて大変よね!」
「あ、ちょっと小夜さん……」

 そのことは、言わなくていい。
 私がユズと一緒にいるせいで陰口を言われてるなんて、ユズは知らなくていい。
 だけど小夜さんの言葉で、ユズは鋭く横目でちらりと私を見た。
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