マスカケ線に願いを

「え」
「あ、大河原さん」
「蓬弁護士……」

 てっきり屋上で一緒に食べるのかと思った。
 するとコウもユズに続いて降りてくる。

「今日は外で食おう。ほら、天気いいし」
「あ、はい」

 ユズの言葉に、私は回れ右をして階段を下りる。と、ちょうど出てきた金田君と鉢合わせをした。

「あれ、大河原さん、約束って……」

 私は口元に人差し指を当てて、微笑んだ。

「え、あ……そっか」

 私は何も言わずに手を振って、金田君を置いてユズ達と下に向かう。
 事務所から出たところで、ユズがむっとした顔で続けた。

「さっきの男は、杏奈を狙ってるな」
「えっ」

 ユズの言葉に、コウもうなずいた。

「あれは杏奈ちゃんがユズと一緒にいるのを見て、ショックを受けた感じだよな」
「え、でも金田君はただの同僚ですよ」

 話しながら私達がやってきたのは、事務所の脇のテラスだった。

「あー……くそ」

 テーブルについた途端頭を抱えたユズ。

「どうしたの」

 尋ねた私に、ユズは恨みがましい視線を向けた。コウはそれを見てくすくす笑っている。

「なんでもない」
「ふ、あの蓬柚紀も女のこととなると腰抜けだな」
「うるさいな」

 コウは私を見て、

「俺から見ても、二人は結構良い感じだと思うんだけど、杏奈ちゃんはユズじゃ不満?」
「不満だなんて、そんな……」
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