マスカケ線に願いを

 本当は、一緒にいたい。
 うんとうなずいてしまいたい。

 だけど、

『杏奈に俺は必要ないだろう』

 ユズに、そう言われたら、私はどうすればいいの……?

「おい、幸樹。杏奈困らせるなよ」

 むっとした様子で、ユズが言った。

「俺は杏奈のこと待ってる気でいるんだから」
「だけどな、見てるこっちからしたらもどかしいなんてもんじゃないぞ」

 コウは少しだけ、私を責めるように口を開いた。

「傍から見てれば、本人達に見えないもんが見える。どう考えたってお前ら好きあってるんだから、さっさとくっついちまえばいいって思うんだよ」

 コウの言葉に、私はうつむいた。

 確かに、他人からすれば私の迷いなんて些細なことなのかもしれない。
 だけど、一歩を踏み出せないのは、私が弱いからじゃなくて、弱くなりたくないから。


「杏奈……」

 黙ってお弁当に箸をつける私に、ユズが心配そうな声をかけた。

「人の恋路に口出しなんかしてると、女の人から嫌われますよ」

 責められてばかりじゃいられない。私はさらりとコウにそう言った。

「っ」

 私の言葉に、コウは真っ赤になった。

「ちょ、それとこれとは話が……」
「私達の心配よりも、ご自分の心配をなさったほうがいいんじゃないですか」

 舌を出す勢いで言った私に、コウはうろたえ、ユズは吹き出した。
< 123 / 261 >

この作品をシェア

pagetop