マスカケ線に願いを

「やっぱ、杏奈は良いな」
「そう? ユズは変わってるね」
「惚れ直した」

 ユズが、じっと私を見つめている。
 口元に運んだ箸が、不自然に止まってしまった。

 そんな、まっすぐな瞳で、見つめないで――……

 時が、止まったような気がした。

「おーい、ここに俺がいること忘れてない?」
「っ」

 コウのからかうような言葉に、私ははっとした。ユズは、私を見つめたまま。

「わ、私、先に戻ります」

 ほとんど空になったお弁当箱を片付けて、私は立ち上がった。

「おい、杏奈?」
「杏奈ちゃん?」
「ま、また今度」

 私はその場から逃げるように、事務所へと駆け戻った。


 胸が、苦しい。
 苦しくて、仕方ない。

 私が、こんなにも、ユズのことが好き……。

 こんなにも、溺れているなら、ユズの申し込みを受け入れない意味がない。
 私はすでに、ユズに心を奪われている。

 だけど、怖くて、仕方ない。


 ねえ、マスカケ線、教えて、私、どうすればいいの?
 私、自分の意思できちんと行動できている……?


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