マスカケ線に願いを



「大河原さんって、本当に蓬弁護士と付き合ってるの?」

 仕事が終わって帰ろうとしたところを、金田君に呼び止められた。

「え」
「いや、噂は聞いてたけど……」
「ううん、付き合ってはないよ」

 金田君は納得いかない様子だけど、話題を変えた。

「誕生会どこでしよう?」
「あ、私良いお店知ってるよ。あんずっていう店なんだけど、二階は大広間になってるはず」
「本当? なら、そこ予約しよう」

 など、大雑把なことを決めて、私達は別れた。


 佐々木主任の誕生日は土曜日。でも、金曜日に前祝をすることにする。きっと、家族が好きな主任のことだから、誕生日当日は家族と一緒にすごしたいだろうということで、金曜の夜に予約を入れた。


「金曜の夜は、司法書士組で飲みに行くの」
『俺も行く』

 ユズが電話越しにそう言う。
 私はベッドに寝転がりながら、電話をしていた。

「でもユズが来たら、またいろいろ言われちゃう」
『……ごめん』

 しまったと思って、慌てて、

「ごめん。ユズのせいじゃないんだよ。私そういうのは慣れてるから」
『いや、そんなことには、慣れなくてもいいだろ?』

 ユズの、そんな言葉が私を甘やかすから。

「でも、強くありたいから」
『杏奈は強すぎだ』

 弱くなりそうになる。
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