マスカケ線に願いを

「蓬弁護士、こちら席空いてます」
「久島弁護士、こちらへ」

 やっぱり、ユズとコウは人気者だ。他にも弁護士達とお近づきになりたいハイエナ達が目を光らせている。
 肩をすくめた私がお酌を続けていると、ユズが私のほうに歩いてきた。

「ちょっと、皆の前です」

 私が小声でいさめると、ユズはにっこりと笑う。

「なあ、杏奈って、嫌がらせ受けてるんだろ?」
「は?」

 小声で囁き返すユズの意図がわからず、私はきょとんとする。

「杏奈が良かったら、俺に何かさせてくれない?」
「……何かって……?」

 なんだか嫌な予感がしつつも、訊ねる。

「んー、内緒」

 にっこり笑うユズが、胡散臭い。

「余計なことは……」
「わかってる」

 そう言って、先輩達のところへ向かうユズ。お酌のためにあちこち回りながらも、ユズが何をするのか気になって、横目でちらりと盗み見をしてはいるのものの、ユズもコウも和やかに飲んでいる。
 ふうと安堵のため息をついた私の肩を、ぽんと誰かがたたいた。

「きゃ」
「あら、驚かせてごめんなさい」

 振り返ると、そこにいたのは妙齢の美人。顔を知らないということは、この人も弁護士なのだろう。
 彼女はきらきらと目を輝かせて、私をまじまじと見つめてきた。

「貴女がユズ君の姫君?」
「は?」

 意味のわからない単語をぶつけられ、思わず間抜けな声が出てしまう。
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