マスカケ線に願いを

「え、あっ、すみません」
「いいのよ。やっと顔見れた。ふふ、私は木山静香。よろしくね」
「あ、私は大河原杏奈です」

 彼女はにやにやと笑いながら、品定めをするように私を見る。

「ふふ、うちの堅物ユズ君を落としたのは、貴女かあ」
「えっ!?」

 私はユズを落とした覚えはない。

「こんな美人だったら、骨抜きになるのも無理はないわね」
「き、木山弁護士のような美人な方に言われても……」

 慌てて私は首を横に振った。

「弁護士うちで有名な話よ、ユズ君が司法書士の女の子にぞっこんだって」
「ほ、本当ですか?」

 あんまり、目立ちたくないのに……。
 知らずに出るため息を、木山弁護士が見咎めた。

「杏奈さんは、もしかしてユズ君とのことを隠したいと思ってるのかな?」

 木山弁護士の言葉に、私は首を横に振った。

「えっと、蓬弁護士との事と言われても困るのですが、私達は付き合っていませんし……でも、確かに仲がいいと知られるのは……」
「どうして?」

 私は苦笑する。

「私、目立つらしいので。蓬弁護士は人気者でしょう? 一緒にいたら余計目立ってしまいます」
「うふ、確かにね。でも、隠そうとするから余計目立つんじゃない?」
「え」

 木山弁護士は悪戯っぽく笑って、

「コウ君も私も、二人のこと応援してるからね」

 自分の席に戻っていった。呆然としている私の耳に、ユズ達の声が聞こえてきた。
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