マスカケ線に願いを
「叔父が譲ってくれたんだ。さ、いつまでも突っ立ってないで」
私は恐る恐る、その高級車の助手席に座った。
「シートベルト」
「あ、はい」
きちんとシートベルトを締める。
「弁護士が切符切られるとか、洒落にならないだろ」
「それもそうですね」
蓬弁護士もシートベルトを締め、そして車を発進させた。
数十分後、車は私の住んでいるマンションに着いた。移動の途中も会話が途切れることはなく、楽しい時間だった。
「わざわざ送ってくださってありがとうございました」
「何、俺のマンションはここからすぐだから」
穏やかに笑う蓬弁護士は、本当に格好良い。
「それじゃあ、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
車を見送って、私は一人微笑んだ。
うちの事務所のエリート、久島弁護士と蓬弁護士。
沢山の女の人達が鼻息を荒くして、その彼女のポジションを狙っている。
どれだけそのことを鼻にかけた人達かと思っていたら、意外に好印象の人達だった。
一つだけ良いことを知った、とそれくらいの気持ちで、私はマンションに入っていった。