マスカケ線に願いを

「蓬弁護士はお付き合いしてる方、いらっしゃるんですか?」

 媚を売ったような声で話す先輩に、苦笑する私。

「付き合ってる人はいないけど」
「えー、本当ですか?」

 一瞬、視線を感じる。そちらを見れば、勝ち誇ったかのような先輩達の視線。げんなりとしてお酌に戻ろうとした私を引き止めたのは、ユズの言葉だった。

「凄い大切な人ならいる」
「え?」
「どういうことです?」

 ユズが、私を見ているのがわかった。背中に視線を感じる。

「可愛い俺の子猫ちゃんなんだけどな、他の野良猫がちょっかい出してるみたいなんだ」

 にっこりと笑って言うユズに、コウがくすくす笑っている。見れば、木山弁護士も笑っていた。
 先輩達が首をかしげた。

「俺の凄い大切な子猫に、ちょっかい出してる野良猫達に、どんなお仕置きをしてやろうか考えてるところ」

 先輩達が顔を見合わせた。そこにタイミングが良いのか悪いのか、小夜さんが口を挟んだ。

「あ、それって杏奈ちゃんのことでしょう」

 お酒が入っているのか、明るい声で言った小夜さんの言葉が、部屋に響いた。
 呆気にとられる私をよそに、ユズは笑っている。私のことを知らず、『ユズの姫君』を見たいであろう弁護士達がきょろきょろと室内を見渡して、呆然としている私に視線をとめる。
 そして司法書士達の視線ももちろん私に注がれた。

「あれ、大河原君と蓬君はお付き合いしているの?」
「さっ、佐々木主任!」

 無邪気に尋ねられた私は、慌てた。
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