マスカケ線に願いを


「……私、ユズに振り回されっぱなし……」
「何か言ったか?」
「いえ」

 コウはくすくす笑った。

「やっぱお似合いだわ」

 とそんなことを呟くので、私はコウに噛み付いた。

「どうしてユズの好き勝手させるんですか!」
「え、何、聞こえない」

 このライオンめ……。

「もうっ、シスコン弁護士って呼んでやるんだから」
「ちょ、待て、なんで俺が責められてるんだ!?」

 そんなこんながありながらも、飲み会は楽しく終わり、佐々木主任も始終笑顔だった。

「大河原君、結婚式には呼んでくれるよね」
「しゅ、主任!」

 帰り際にそんなことを真顔で言われて、私はたじたじになる。

「それじゃあ、気をつけてね」

 そのまま飲み会はお開きとなり、金田君が清算を済ませた。それを待っていた私の隣には、ユズ。
 金田君は居心地が悪そうに、ユズの事を見ている。

「蓬弁護士は、大河原さんの何なんですか?」
「ん?」

 金田君が、むっとした顔でユズに訊ねた。

「俺は杏奈のナイトだけど」
「ナイト?」
「杏奈を守る権利をもらってる」

 ユズの恥ずかしい言葉にもめげず、金田君はさらに食ってかかった。

「さっき、大河原さん困ってたじゃないですか。それで守るとか、よく言えますね!」
「か、金田君……?」

 いきなり、雰囲気が悪くなった。というよりも、金田君が一方的にかりかりと怒っている。

「君は司法書士なんだろ?」

 ユズは静かな声で金田君に尋ねた。

「そうですが何か」
「それなら、杏奈の噂は聞いてたんだろ?」
「……それが?」
「なら、なんで杏奈を助けてやらなかった?」

 金田君は目を丸くした。
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