マスカケ線に願いを

「大河原さんは、噂なんて気にしてませんでしたよ。凄く強い人だと思って……」

 ユズはふっと目を細める。怒っているのか、ユズの放つ雰囲気が険悪だ。

「杏奈が気にしてなかったとでも、本気で思ってんのか、お前」
「え」
「ちょっと、ユズ、やめて。ごめんね、金田君。私達、帰る」

 呆然とする金田君を置いて、私はユズの手を引いてその場を去った。

「私の同僚に喧嘩売らないでよ。私が気まずくなるじゃない」
「向こうが売ってきたんだろう」

 確かにそうだけど……。

「杏奈もわかっただろ、あいつはお前に好意を持ってる」
「……うん」

 ユズはため息をついて、

「タクシー拾うぞ」
「あれ、車は?」

 私の言葉に、ユズは呆れたように、

「飲み会に車で来る馬鹿がどこにいるんだ」
「あ、そっか……」
「杏奈んとこ寄って、荷物取ったら、俺んとこな」

 ユズの言葉に、私はうなずいた。


< 133 / 261 >

この作品をシェア

pagetop