マスカケ線に願いを



 お風呂にも入って、部屋着に着替えた私達は、ソファに並んで座っていた。

「杏奈」
「うん?」
「可愛い」

 ユズの言葉に、私は苦笑する。

「私は可愛いってタイプかな」
「俺からすれば、可愛い子猫ちゃんだけどな」

 子猫ちゃん、ね。

「俺が初めて拾った捨て猫だな」

 そういえば、そうだった。
 凄く堕ちていたときに、ユズに拾われたんだった。

 ユズが、私の頬に触れた。
 私はその手に触れる。

「ユズの手って、大きいね」
「そりゃあ、男だからな」

 私はユズの手をなでる。

「くすぐったい」
「骨ばってる。やっぱり、私の手とは全然違う」

 と、私はふと思い出した。

「そういえば、姫君ってなに?」
「へ?」
「木山弁護士に、貴女がユズ君の姫君かって言われたよ」

 私の言葉に、ユズはぶっと吹き出した。

「いや、ごめん。それはもっぱら俺のせいなんだけど、弁護士うちで杏奈のことが話題になってさ」
「なんで?」
「幸樹が口を滑らせたんだったかな。それで、俺すっげえからかわれてんの」

 私は口を尖らせた。

「ユズがからかわれる分にはいいけど、私までからかわれる羽目になったじゃない」

 私の言葉に笑ったユズが、すばやく私の唇にキスをした。
< 134 / 261 >

この作品をシェア

pagetop