マスカケ線に願いを
「っ」
「あんまり可愛い顔してくれるな。男は狼なんだから」
ユズが困ったような顔をする。
「実際、さっきから理性が危ない」
「え……」
ユズはそう言うと、私を抱きしめた。
「ゆ、ユズ?」
「杏奈……」
ソファに押し倒され、私は身動きが取れなくなる。
「……っ」
心臓が、早鐘を打つ。
「ゆ、ユズ……っ」
私はぎゅっと身を強張らせた。その瞬間、ユズが私から離れる。
「……すまん」
ユズががしがしと頭をかいて、
「杏奈と一緒に寝る自信がなくなってきた……」
と情けない声を出す。
本当なら、強引にでも関係を持つことはできるはずなのに、ユズは私にそれをしない。冗談では言うけれど、私とそういう行為をしようとは誘わない。
距離をとるユズの手を、私は握った。
「杏奈、俺……」
「聞いて欲しいことがあるの」
私は、そっと切り出した。
「私、この容姿だから、男の人は向こうから寄ってきた」
それを否定する気はない。
「私は、恋愛とかにさほど興味があったわけじゃないけど……中にはしつこく言い寄ってくる人もいた」
押しに負けて、付き合ったことも何度かある。