マスカケ線に願いを
「大河原杏奈です」
簡単に自己紹介を済ませる。
男達が私を値踏みするように見ているのが、すぐにわかった。
自慢ではないけれど、私の容姿は人目を引くものらしい。美人と、よく言われる。
よく食事に誘われたり、町で声をかけられたりもする。
だけど、私は男の人と長続きしない。
価値観の違いが明らかだからだ、と思う。
「杏奈さんは法律事務所で働いてるんだって?」
「まあ」
早速、私の隣に陣取った男が話しかけてくる。
「すごいね、資格取るのって大変なんだろ?」
馴れ馴れしく話しかけてくる人だ。
「そうですね。司法書士の資格は合格するのが難しいらしいですね」
「でも、儲かる仕事だってね」
「そうでもないですよ。サラリーマンとかと同じくらいです。儲かる人は儲かるんでしょうけど、私は雇われている身なので」
司法書士が儲かるって言うのは偏見だ。
「でも、書類作るだけだろ? 楽そうな仕事だよね」
男の言葉に、私は顔をしかめた。
「休日出勤も珍しくないですし、仕事が終わらなかったら定時以降も働きますよ。書類を作るのには、責任が付きまといますからね。けっこう大変な仕事ですよ」
人の仕事に、よくそんなことが言えるものだ。
よく知りもしないのに軽々しく話せるこの男の脳みそをかき回してやりたかった。
「へ、へえ、そうなんだ」
明らかに険の混ざった私の言葉に、男はへらへらと笑った。その額に冷や汗が浮かんでいる。