マスカケ線に願いを
以前、ユズは私がタイプだったから気になったって言っていたけど、写真の『こまち』さんは、どう見ても私とは正反対の人だった。
真っ黒な黒髪に、色白の肌。こんなに穏やかそうな、優しそうな笑顔は、私には作れない。大人しそう、という形容詞がぴったりな感じだ。
気の強さがまったく隠せてない私の顔。地毛は茶色がかっている。大和撫子といった雰囲気の彼女とは、やっぱり正反対。
写真の中でも、いくら周りがはっちゃけていても、彼女は穏やかに笑っているだけだ。
私はそっとアルバムを閉じて、掃除を再開した。
ユズの過去にまで嫉妬していたら、きりがない。私に男がいたように、ユズにだって女がいたことがあるだろう。
だけど予感といってもいいかもしれない、なぜか、この『こまち』さんのことが気になった。
「ただいま」
「おかえりなさい」
ユズが帰ってきて、私はそれを笑顔で出迎えた。掃除は全部終わっていたし、夕食の準備も終わっていた。
「うわ、すっごい片付いてる」
リビングに入ったユズが目を見張った。ユズのスーツを受け取って、ハンガーにかける。
「うん」
「ありがとな」
ユズは私の頭をなでる。
「今日は、回鍋肉だよ」
「おっ、まじか」
時々思うのは、私はユズを胃袋でつかんでいる気がするってことだ。
「ユズ、食べ物に釣られてなんかないよね?」
「うん? そんなことより、早く食べたい」
にっこり子供みたいに言うユズに、私は苦笑した。
「やっぱり胃袋ね」
笑いながら食事の用意をする私を、ユズが何も言わずに手伝ってくれる。