マスカケ線に願いを
「ユズは疲れてるんだから、座っててくれればいいのに」
「何言ってるんだ。家事こなしてくれた杏奈だって、疲れてるだろ? お互い様だ」
そう言って、何事でもないように家事を手伝ってくれるユズは、できた人だと思う。なかなか、こういう些細なことをできる人はいないんじゃないだろうか。
「さ、一緒に食べよう。食べ終わったら、一緒にお風呂入ろうな」
「うん……って、一緒には入らない」
思わずうなずきかけた私は、ばしっとユズの腕を叩いた。
「えー」
「えー、じゃないでしょう。早く食べよう」
くすくす笑っているユズに、私もつられて笑ってしまう。向かい合わせに座って、いただきますと手を合わせてから、回鍋肉に箸を伸ばした。
「うん、美味いっ」
美味しそうに食べるユズを見ながら、先ほどの『こまち』さんを思い出した。それに、見てしまったものを黙っているのは悪い気がする。
「ねえ、ユズ」
「うん?」
躊躇いがちに話しかけた私に、ユズが優しい視線を向けてくれる。
「さっきお掃除しているときに、ユズのアルバム見ちゃったの」
「アルバム?」
「大学時代のかな」
私の言葉に、ユズが考えるような顔をして、そしてああ、とうなずいた。
「別に見られて困るもんじゃない」
と、笑って言うユズ。私は、少し複雑な気分になった。
「本当に?」
「何がだ?」
回鍋肉を口に運びながら、ユズが首をかしげた。
「……なんでもない」
「なんだよ」
私は肩をすくめた。
『こまち』さんとの写真を、私に見られてもユズはなんとも思わないらしい。
もしかしたら、さっきの嫌な予感はただの気のせいで、ユズにとっては、過去のことなのかもしれない。