マスカケ線に願いを
「最初は憧れだったの。でも……いつの間にか、少しでも近づきたいなって思うようになってて」
そう告白する小夜さんは、恋する乙女のようで本当に可愛い。どうして私はこんなふうに可愛く振る舞えないんだろう。
素直にユズと一緒にいたいって言えばいいのかな。
素直にユズに小町さんと会わないでって言えばいいのかな。
だけど、私はそんな素直じゃないの。
「久島弁護士の気持ちはわかりませんけど、でも、お二人が近づけるように、場を設けたりしますね」
「うっ……」
私の言葉に、小夜さんは頬を押さえて恥らう。でも、ふと心配そうに私を見た。
「杏奈ちゃん、私のことを気にするのもいいけど……蓬弁護士とは本当に大丈夫?」
「大丈夫って……」
私は笑った。
「ユズが私に惚れてるんですよ。きっと大丈夫です」
と、心にも無い自信を見せる。私が笑えば、小夜さんも少し安心したように微笑んだ。
「そっか。そうだね、蓬弁護士に限って……」
「でしょう?」
「うん、あれだけ杏奈ちゃんにストーカーしてたし」
私は小夜さんの言葉に噴き出した。
「ストーカーって!」
「あれ、蓬弁護士が杏奈ちゃんに付き纏ってるようにしか見えなかったわよ」
確かにその通りで、笑える。ユズも自分でストーカーだと言っていたので、余計に可笑しかった。
いつのまにか、ユズと一緒にいるのが当たり前になっていた。
だから、一緒にいない時間が、寂しいと思える。
「それじゃあ、そろそろ仕事に戻らなきゃ」
「はい、それじゃあ、また」
各々のデスクに戻った私達。だけど、私は少しぼんやりとする。
小町さんと会っているだろうユズのことが、無性に気になった。