マスカケ線に願いを

「えっと、新松に住んでます」
「え、まじで?」

 小夜さんの答えに意外そうな声を出したのは、コウだった。

「なんだ、同じだったのか」
「えっ? 久島弁護士も新松なんですか?」
「ああ、実家からなんだけどな」

 小夜さんは頬を赤くして、そうなんだ、と呟いている。そこにユズの笑い声が混ざった。

「なあ、せっかくだから、幸樹に送ってもらったら?」
「えええ?」
「ん、小夜ちゃんがバイクでも良いって言うなら、乗せるけど?」

 コウが、にっこりと小夜さんに笑いかける。それに、小夜さんが真っ赤になった。

「で、でも……」
「せっかくだから、ご一緒したらどうです?」

 私もそんな小夜さんの背中を押す。しばらく躊躇っていた小夜さんは、小さくうなずいた。

「じゃあ」

 バイクにまたがったコウが、小夜さんに向かって左手を差し出した。

「乗れる?」
「あ、はい」

 差し出された手を握って、小夜さんがコウの後ろにまたがった。コウはヘルメットを小夜さんに渡して、かぶるように言う。

「じゃあ、しっかりつかまってて」
「……はい」

 小さい声でうなずいた小夜さんを見て、コウが私達を振り返った。

「それじゃあ、俺達は行くな」
「おう、安全運転でな」

 ユズがからかうように言うと、コウは笑った。
< 178 / 261 >

この作品をシェア

pagetop