マスカケ線に願いを
「ご機嫌ですね」
「うふふ、昨日は幸樹とデートだったの」
いつのまにか幸樹と呼ぶようになった小夜さんだけど、そう言いながら顔を赤く染める様子は今までとなんら変わらない。
「ねえ、そういえば杏奈ちゃん?」
「はい?」
席に座りかけた私はそのまま振り返った。
「幸樹が言ってたんだけど、杏奈ちゃん達って同棲してるの?」
「え?」
同棲なんてしていない。だけどユズの部屋か私の部屋にお互いが泊まりあう毎日を送っているのは確かだ。
「……同棲はしてませんけど」
でもこれじゃあ、同棲しているのと同じだ。
「それだけ一緒にいるのなら、一緒に暮らしちゃえばいいじゃない」
呆れたような小夜さんの言葉に、私は口をつぐんだ。
お互いの家を行き来する生活は、それはそれで楽しいけれど、少し不便でもある。小夜さんの言うとおり、一緒に住んでしまうのが手っ取り早いのかもしれない。
そこまで考えた私は、ふむと息を吐いた。
「考えてみます」
「あら、素直でよろしい」
満足そうに笑って自分のデスクに向かった小夜さんは、鼻歌を口ずさんでいた。