マスカケ線に願いを
昼休み、私は小夜さんに断ってコウを呼び出していた。打ち合わせで出かけているユズには内緒で。
「珍しいな、杏奈ちゃんから呼び出しなんて」
「小夜さんとの時間奪っちゃって、ごめんなさい」
私の言葉に、コウは笑った。
「小夜とはいつでも会えるから」
いつの間にか小夜と呼び捨てしているコウに、私は微笑んだ。
「で、今日は何の用?」
「ユズとの、ことで」
「だろうなとは思ったけど……なんかあった?」
私は躊躇いながらも、意を決して口を開いた。
「しばらく、ユズと距離を置きたいと思って」
私の言葉が予想外だったのか、コウは目を見開いた。
「どうした、いきなり?」
「……今のままじゃ、いけない気がするんです」
私はそっとため息をついた。
「私、なんだか自分を見失ってる気がして……」
私は、躊躇いながらもそれを口にした。
「コウも知ってますよね、私が気が強いの」
「まあ、杏奈ちゃんはしっかり者だよな」
コウは、そう言ってうなずく。
「ユズと付き合う前、私が迷ってたの覚えてます?」
「忘れるわけないよ。こっちがどれだけもどかしい思いしたと思ってる?」
「私あの時、ユズが私から離れていってしまうのが怖かったんです。私にユズは必要ないって、そう言って離れていくのが」
私の言葉に、コウは不思議そうな顔をした。
「今まで付き合ってきた人達に言われたことなんです。お前に俺は必要ないだろ、って」
「……もしかして、それがトラウマになってた?」
「それに近いと思います」
私を戒めていたあの言葉。だけどユズがその呪縛を解いてくれた。