マスカケ線に願いを
「ユズ、言ってくれたんです。私にユズは必要ないけど、ユズに私が必要だって」
「……あいつも、よく言うな」
聞いているコウのほうが照れてしまったようで、ぽりぽりと頬をかいている。
「でも、私は嬉しかったんです。でもこの前、ユズに一緒に暮らさないかって言われて……」
「あ、本当に言ったんだ、あいつ?」
「小夜さんも私に同じようなこと言ってましたしね。コウもユズに同じこと言ってたんですね」
私は苦笑して、そして続けた。
「ユズにそう言われたとき、心の中で何かが駄目だって言ったんです」
「……何が駄目なんだ?」
コウの問いに、私は言葉が詰まった。コウは急かすことなく、ただ静かな瞳で私の言葉を待っている。
「……ずっと、怖かったんです」
私は、ユズにも言っていないことを、コウに告白することにした。
「ユズと付き合って、それで別れるようなことになったら……私、一人で歩いていけないって」
私の言葉を、コウは何も言わずにただ聞いてくれた。
「でも、気づいたの。私、最近、ユズに依存してる」
思わず敬語を忘れて呟いた私の頭を、コウはそっとなでた。
「私はいつでも自分の足で立っていたいの。ユズと一緒にいても。でも、今、私はそれができていない」
「それに、気づいて、苦しんでる?」
私は、小さくうなずいた。
本当は苦しんでいるというのとは少し違う。
ただ、何かが違うと思う。そしてこのままでは駄目だと。
「ユズとは一緒にいたい。一緒に暮らすなんて、素敵だと思う。でも……このままだと、私が駄目になっちゃう」
「杏奈ちゃんが、杏奈ちゃんじゃなくなっちゃうってこと?」
「……そうしたら、ユズに嫌われちゃうかもしれない」
私の言葉に、コウは首を横に振った。