マスカケ線に願いを
「幸樹の妹だよ」
「……由華さんとユズがなんで?」
「由華ちゃんが、幸樹に恩返しがしたいからって。その相談に乗ってたんだ」
ユズの弁明に、私は首をかしげる。
「それを私に隠す理由はあったの?」
「杏奈のことを信じてなかったわけじゃないけど、由華ちゃんの計画を知ってる人はできるだけ少なくしたかったんだ。ただでさえ幸樹は勘が鋭い奴だから」
ユズは私の手をとった。
「だけど変な噂になってるの聞いて、杏奈がどう思ってるか気が気じゃなかった……」
私は、そっと息を吐いた。
「なんとも思ってないよ」
「……杏奈?」
「でも、距離を置きたいって思って良かったって思った」
自分が、わからない。
本当はユズと一緒にいたいはずなのに。
どうして私、こんなに心が冷えてるの?
「もし、そうしてなかったら……私、壊れてたよ」
ユズ、この感情は一体なんだと思う?
私の頑なだった心を揺らしたのは貴方。
私の心をさらっていったのも貴方。
そして今、私を凍りつけたのも、貴方だよ。
「私にユズは必要ない。そんなわけ、あると思ってるの?」
「杏奈……」
私にユズが必要ない、そんなこと思ってるのはユズだけだ。
「私はユズが好きで、どうしようもなく好きで、だから不安になるのに」
不安になる。その心に打ち勝ちたいから、心の整理をしたかったのに。
「私の心を乱さないでよ」
本当は乱すどころか、凍りついた。