マスカケ線に願いを
その日の昼、私はコウに呼び出された。二人で話をしたいということで、小夜さんは他の司法書士の皆と食事を共にしている。
「なんですか、話って」
屋上で会ったコウは、いつになく真剣な顔をしていた。
「ユズと会ってないだろ、杏奈ちゃん」
「……はい」
「なんで? 俺はてっきり距離を置くだけだと思ったんだけど」
「会いたくないって、言いました」
私の言葉に、コウが私に咎めるような視線を向ける。
「ユズが由華と会ってたせい?」
「それじゃあ、サプライズは終わったんですか?」
「話をそらすな」
コウの声は、とげとげしかった。
「今の杏奈ちゃん、なんか冷たいぞ」
「冷たい?」
そう見えるのだとしたら、それはこの凍りついてしまった心のせいだ。
ユズに会いたい、その気持ちは変わっていない。
ユズと一緒にいたい、その気持ちは変わっていない。
だた、凍りついて私の中に存在している。
「杏奈ちゃんが、わからない」
コウの呟きに、私は微笑んだ。
「コウがわからなくて、当然ですよ。私だって、何がしたいのかわからなくなっちゃったんですから」
私の言葉に、コウが目を見張った。
「ユズが由華さんと一緒にいるのを見たときから、私の心は何も感じなくなったんです」
「杏奈、ちゃん?」
「ユズと一緒にいるために距離を置こうと、ユズと一緒にいても一人で立てるように、お互いに依存しあうんじゃなくて、支えあうような関係になりたいと思っていたのに……」
コウの顔を直視できなくて、私は目を伏せた。