マスカケ線に願いを
「ユズは、杏奈ちゃんのこと大事にするよ。浮気なんかする奴じゃない」
「……わかってます」
「なら……」
「これは、ユズの責任じゃないんです」
そう、こんなにも私の心が揺れ動かされるのは、ユズのせいなんかじゃない。
「私が、弱いからなんです」
「……そんな」
「だから、強くならなくちゃいけないんです。そのために、今はユズに会えない」
それは私の決意。
「……コウ、マスカケ線って、知ってます?」
「マスカケ線?」
コウが首をかしげた。私は自分の右手を見せる。
「こうやって、手を横に一直線に走ってる線ですよ」
「あ、本当だ」
コウは自分の右手と見比べて、へえと呟いた。
「この手相は、自分の未来を自分で手に入れられる手相なんです」
「それって、なんか杏奈ちゃんらしいな」
私はうなずいた。
「だから、自分で乗り越えなくちゃいけないんです。今の、凍りついた心も」
「……そっか、俺なんかが口出す問題じゃなかったか」
「いいえ、コウは私達のことを心配してくれたんですよね?」
「まあ、な」
誰かが私を、私とユズのことを心配してくれるという事実がくすぐったくて、笑った。
「ありがとうございます。でも、ちゃんと大丈夫ですから」
実際に、凍りついた心が、コウのおかげで温まったから。
前に、進めそうな気がした。