マスカケ線に願いを
ユズのことが好きなら、心が揺れるのは当たり前。
そんな単純なことから目を背けて、私はいったい何がしたかったんだろう。
結局私は恋愛のこととなると酷く不器用なのかもしれない。
素直になってしまえば、何もかもがうまくいくのかもしれない。
コウが、私はきちんと自分の足で立っていると言ってくれた。確かに、私が完全にユズに依存しきっていたら、自分から離れようなんて思わなかったはずだ。
人とこんなにも深く付き合うことは初めてで、自分自身戸惑っている。
だけど、ユズに何もかもを任せて、ユズの何もかもを受け止めたら、それでうまくいくのかもしれないと、そう思った。
家に帰った私は、無性にユズの声が聞きたくなった。
会いたくないと言ったのは私。凍りついた心に振り回されて、私はユズの話も聞こうとしなかった。
ユズに謝らなくちゃいけないと思ったけれど、連絡をするのは躊躇われた。
私はため息をついて右手を見つめる。
私がつかむ未来って、いったい何なんだろう。
幸せだった日々を投げ出して、心を取り戻すだなんて、私はいったい何がしたかったんだろう。
そんなことを、携帯に登録してあるユズの名前を見つめながらぼんやり考えていた。
「……よし」
意を決した私はダイアルボタンを押して、受話器を耳に押し付けた。最初の呼び出し音が鳴り終わる前に途切れて私は驚く。
『もしもし?』
「も、もしもし、ユズ?」
あまりにも早い反応に、私は唖然とした。
『杏奈』
ほっとしたようなユズの甘い声に、私の心臓が飛び跳ねた。
「う、うん」
私が電話をかけたというのに、しどろもどろになってしまう。だけど、これじゃあ駄目だと気力を振り絞り、私は今ユズに伝えなくてはいけないことを口にした。
「ユズ、会いたくないなんて言って、ごめんね」
私の言葉にユズがはっと息を呑む。