マスカケ線に願いを
『……杏奈、そっち今から行ってもいいか?』
ユズが、振り絞るようにそう言った。私は少し戸惑う。
「……いいよ」
しかしそんな戸惑いも超えて、ユズに会いたかった。
「私も、ちゃんと話がしたいし……ユズに会いたい」
『今すぐ行く』
ユズの声が、嬉しそうに笑っていた。
それから十数分後、ユズが私の部屋を訪ねてきた。
「……久しぶり」
強張った笑顔で、私はユズを部屋に招き入れる。久しぶりに会うユズはラフな格好をしていて、寝る前だったんだと悟った。
「杏奈、久しぶり」
そう言って笑うユズは、何も変わらない。私はその笑顔を見て泣きそうになった。
「ユズ、ごめんなさい……」
搾り出すように呟いて項垂れる私の頭を、ユズが遠慮がちになでた。
「謝るのは、俺の方だろう? 杏奈を、傷つけたんだから」
「……でも、私はユズの言葉に耳を傾けようともしなかった」
「最初に何も伝えなかった俺の責任だ」
ユズは、やっぱりずるい。
こんな私を甘やかすんだから。
ぽろり、と、今まで誰にも見せたことのなかったものが私の目からこぼれた。
「杏奈……」
「ユズが、好きで、好きで……自分がわからなくなる」
涙をぬぐって、私はまっすぐユズを見た。
「ユズに依存して、駄目になっちゃう気がして、怖かった」
私は本当に不器用だ。何でも器用にこなせるくせに、恋のことになるととたんに駄目になる。
じっとユズを見つめている私に、ユズはふっと微笑んだ。