マスカケ線に願いを
「杏奈が駄目になるようなことがあったら、それは俺の責任だ。だから、もうちょっと肩の力を抜いてもいいんだぞ。俺は、杏奈と一緒にいたいと思ってるから」
「ユズ……」
「杏奈が迷ったら、俺が支える。俺が迷ったら、杏奈が支える。一緒にいるって、そういうことだろ?」
人が生きていくうえに、パートナーを求めるのは、パートナーに自分の足りないものを求めているから。パートナーの足りないものを補うことが幸せだから。
「俺も杏奈も、完璧なわけじゃないんだから、迷って当たり前だろ?」
ユズの言葉が嬉しすぎて、涙が止まらなくなってしまった。
人前で泣くのは嫌いだった。それが弱さを見せる気がして。いつも強い私でいたかったから。
だけど、ユズにはすべてをさらけ出してもいいとさえ思えた。
「ユズ、本当にごめんなさいっ」
私はユズに飛びついていた。
私を抱きとめてくれる温もりが久しぶりで、安心する。やはり、ユズは大人なんだ。
「自分でも、わかんないのっ、どうすればいいか……」
「杏奈は、そのままでいい。俺は、全部を受け入れるから」
「本当に?」
「ああ」
ユズはそっと私の頬に触れる。
「好きだから。一緒に暮らそう?」
私は、しばらく考えて――そっとうなずいた。
だけどユズは困ったように続ける。
「でも、俺しばらくドイツに行くんだ」
「えっ、ドイツ?」
「そう、ちょっと用事があってな。明後日出発なんだ」
「急だね」
そう言って笑ったユズに促されて、私達はソファに座った。
「杏奈に会ってない間、どんだけ杏奈が大切なのか実感した」
「……え」
「杏奈に会いたくて、毎日携帯眺めてたんだぞ。どうしてくれるんだ」
そんな文句を真顔で言われ、私は反応に困った。
「さっき電話かかってきたときも携帯眺めてたし……」
道理で出るのが早かったわけだ。
「でも、俺から連絡するわけには行かなかったし、ドイツ行きのことどうしようかと思った」
そう言って、ユズがぎゅっと私を抱きしめる。