マスカケ線に願いを


 ユズと一緒にいるために、私はもっと強くならなくちゃいけない。だけど一人で強くなろうとするんじゃなくて、ユズと一緒に支えあっていけたらと思う。
 そのためには、素直になる勇気が必要なんだ。

「ユズ、好きだよ。ドイツ、気をつけてね」
「毎日電話するよ」

 私達の少しこじれてしまった関係は、どうにか落ち着いた。


 翌日、同じ会社の先輩を連れて高島君が事務所を訪れた。受付で私の名前を出したらしく、私は書類作成を中断して談話室へと向かう。

「大河原さん、こちら俺の先輩の田中さん」
「初めまして」
「初めまして。高島にこんな美人の知り合いがいるなんて知らなかった」

 田中さんは縁なし眼鏡をかけたいかにも仕事ができそうなタイプで、少し冷たい印象を受ける人だった。

「聞いたことある名前だと思ったら、確かうちの顧問弁護士はこの事務所の人間だったと思うんだよね」
「え、そうなんですか?」

 田中さんの言葉に、私は目を見張る。そうだとしたらわざわざ訪ねてこなくてもその弁護士を通してうちの司法書士が書類製作をした方がてっとりばやかっただろうに。
 私が高島君を見ると、少し照れくさそうにうつむいた。

「先輩、勘弁してくださいよ。俺知らなかったんですから」
「そんなこと言って、この彼女と近づきたかっただけだろう」

 冷たく目を細めて言う田中さんに、ますます小さくなる高島君。

「ともあれ、書類製作を依頼したいんだが、少し急ぐんだ」

 田中さんが口火を切った。

「詳しいことは言えないんだが、うちの会社では新しいショッピングモールを作るプロジェクトがあってな、その土地を買い占めるための担保なんだが、二十四日までに資金が必要なんだ」

 事務的な口調で言う田中さんだけど、二十四日までというとあと二日しかない。

「高島さんに、すでに必要な書類を伝えてあるのですが、それはすでに用意できているでしょうか?」
「手元にあるのはこれだが」

 手渡された書類を確認して、私は顔をしかめた。
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