マスカケ線に願いを
「代表取締役の印鑑証明書が、足りませんが……」
私の言葉に、田中さんの眉毛がぴくりと動く。
「それは失礼した。明日早急に用意する」
「二十四日までに書類が必要なのでしたら、必ず明日中によろしくお願いします」
「わかった」
田中さんと私が言葉を交わしている間、高島君は一言も発しなかった。私は書類を受け取り、重要書類ということで受理確認書に署名して田中さんに渡した。
「それではよろしく頼む」
「わかりました」
二人が帰っていって、私は中断した仕事に取り掛かった。この書類はあと一時間ほどで終わりそうだ。
「気をつけてね、ユズ」
早朝、見送りはいいと言うユズを押し切って、コウと一緒に空港にいた。コウに連絡をして空港に行くように言い、渋るユズとタクシーに乗ったのだ。
「送ってやれないから良いって言ったのに、幸樹に頼むなんて……」
面白くなさそうに嘆いているユズに、コウと私は同時に口を開いた。
「そんだけ、俺は杏奈ちゃんの信頼があるんだよ」
「だって、寂しいんだもん」
コウをちらりと見てユズがくすりと笑う。そして私の頭をなでた。その温かさに満足している私をよそに、コウが首をひねった。
「しかし、所長は?」
「え、所長?」
私が尋ねると、コウがあきれたように続ける。