マスカケ線に願いを

「行っちゃった」
「それじゃあ、俺達も事務所行くか」
「はい」

 コウと一緒に駐輪場に置いてあったバイクの前に来る。そこでふと、大事なことを思い出した。

「あれ、私バイク乗って良いんですか?」

 確か、妹の由華さんと小夜さんしか乗ったことのないはずの、コウのバイクの後ろ。そこに私が乗るのは躊躇われた。
 だけどそんな私の心配をよそに、コウが笑う。

「何言ってんだ。杏奈ちゃんは俺の妹みたいなもんなんだから、良いんだよ」
「……すみません」

 そう言いながらヘルメットを手渡したコウに私は頭を下げて、コウがまたがったバイクの後ろにまたがった。



 デスクについてパソコンを立ち上げた私は、ふと大事なことに気づいた。

「金田君、私宛の書類届いてない?」
「え、届いてないよ」
「そう、ありがとう」

 明日までに仕上げなくてはいけない高島君の会社の書類だけど、必要な書類がまだ届いていない。
 まだ午前中だから、一応用意だけしておくことにした。


 他の仕事をこなして、昼休みになる。

「杏奈ちゃん、蓬弁護士、ドイツ行っちゃったんだって?」
「あ、はい。さっき見送りに行ってきました」

 小夜さんが話しかけてきたので、私も昼食のために立ち上がった。
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