マスカケ線に願いを
「うん、幸樹がそう言ってた。それじゃあ、今日は私達と一緒に食べましょうよ」
「はい、ありがとうございます」
お弁当箱を持って立ち上がった際、私はふと気づく。
「あ」
「え、どうしたの?」
「いや、明日までに抵当権の書類作らなくちゃいけないんですけど、まだ印鑑証明書がないんですよ」
私の言葉に小夜さんが眼を丸くした。
「え、代表取締役の?」
「はい。でも、明日までに必要だって言われたのに……」
「それは大変ね」
苦笑した小夜さんだったけど、本当に大変なことになるとは、このときの私は気づいていなかった。
「あ、久島弁護士」
屋上に上がる途中で、ちょうどコウと一緒になった。
「よ、二人とも」
「さ、早く行きましょう」
小夜さんが傍目にもわかるくらい意気揚々と歩き出した。
「やっぱり、小夜さんって可愛い」
「だろ」
自慢げに微笑むコウも可愛らしくて、私は微笑んだ。
「あ、そうだ。久島弁護士、この会社の顧問弁護士なさっている方ってわかりますか?うちの事務所の弁護士だそうなんですけど」
屋上に座った私は高島君からもらった名刺をコウに見せた。するとコウが軽く眼を見張る。
「え、俺だけど」
「えっ?」
予想外の言葉に、私は思わず声を上げてしまった。