マスカケ線に願いを

「うん、幸樹がそう言ってた。それじゃあ、今日は私達と一緒に食べましょうよ」
「はい、ありがとうございます」

 お弁当箱を持って立ち上がった際、私はふと気づく。

「あ」
「え、どうしたの?」
「いや、明日までに抵当権の書類作らなくちゃいけないんですけど、まだ印鑑証明書がないんですよ」

 私の言葉に小夜さんが眼を丸くした。

「え、代表取締役の?」
「はい。でも、明日までに必要だって言われたのに……」
「それは大変ね」

 苦笑した小夜さんだったけど、本当に大変なことになるとは、このときの私は気づいていなかった。

「あ、久島弁護士」

 屋上に上がる途中で、ちょうどコウと一緒になった。

「よ、二人とも」
「さ、早く行きましょう」

 小夜さんが傍目にもわかるくらい意気揚々と歩き出した。

「やっぱり、小夜さんって可愛い」
「だろ」

 自慢げに微笑むコウも可愛らしくて、私は微笑んだ。

「あ、そうだ。久島弁護士、この会社の顧問弁護士なさっている方ってわかりますか?うちの事務所の弁護士だそうなんですけど」

 屋上に座った私は高島君からもらった名刺をコウに見せた。するとコウが軽く眼を見張る。

「え、俺だけど」
「えっ?」

 予想外の言葉に、私は思わず声を上げてしまった。
< 221 / 261 >

この作品をシェア

pagetop