マスカケ線に願いを

『えええっ? 田中さんが持ってったはずなんだけど?』
「いつ?」
『え?ごめんわかんない! それじゃあ!』
「え、ちょっ……」

 切られた電話に、私は唖然とした。
 明日必要な重要な書類だというのに、こんないい加減なことでいいのだろうか。

「電話、切られた?」
「ちょっと、いい加減すぎない?」

 コウと小夜さんが顔をしかめて私を見た。私は盛大なため息をつく。

「どうしよう……」
「本人証明でひっかかるかもしれないわね」

 事情がわかる小夜さんも、難しい顔でため息をついた。

「ちょっと待ってろ。黒田さんに電話するから」
「え?」

 コウが携帯を取り出してそんなことを言ったので、私はきょとんとした。

「黒田さんって、誰ですか?」
「顧問弁護士だよ。取締役とも知り合いだから、俺が今日中に印鑑証明書もらってきてやる」
「ま、待ってください! コウにそんなこと頼むなんて……」

 私が止める暇もなく、コウは電話をかけていた。

「あ、もしもし? 黒田さん、久島です」

 コウが話し出したので、私は仕方なく黙ってそれを見守る。

「……はい、それじゃあ、黒田さんの手元にあるんですね? わかりました」

 電話を切ったコウが笑顔で私を見た。
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