マスカケ線に願いを
「コウ、小夜さんと一緒に帰ってください」
「え、私は付き添う気で……」
私は笑顔で首を横に振った。
「大丈夫です。日付が変わる前に終わると思いますから。コウ、小夜さん、本当にありがとうございました」
「わかった」
「ちょっと、幸樹」
承諾したコウに、小夜さんが非難の声を上げた。そんな小夜さんの頭をなでて、コウが笑う。
「ちょっとは杏奈ちゃんの気持ちを悟れよ。杏奈ちゃんは、俺達に迷惑かけたくないって思ってるんだから」
「迷惑だなんて思ってないんだからね!」
「はい、助けてくれるのは凄く嬉しいんですけど、せっかくの二人の時間の邪魔をしたくないので。それにコウには、明日の朝書類を届けてもらえたら嬉しいと思ってますし」
私が笑顔でそう言うと、コウが声を上げて笑い出した。
コウに頼もうと思ったのは、書類を本当に高島君達が取りにくるか不安だったからだ。
「はははっ、杏奈ちゃん、ユズに似てきたな」
「でも、届けてくれるんですよね?」
「もちろんだ。黒田さんにきちんと渡しておく」
コウは快く引き受けてくれたので、私は安心した。
「それじゃあ、書類は私のデスクの上に置いておきますから。気をつけてくださいね」
「ああ、頑張ってな」
私は二人を見送ってから、再びパソコンに向かった。そして、書類作成に集中しだした。