マスカケ線に願いを



「んっ……」

 私は思い切り背伸びをした。疲れて重たくなった目をこすって、印刷された書類をまとめる。
 時刻はすでに十一時を回っていた。もうすぐ日付が変わるといったところだ。
 書類をまとめて、コウにわかるようにデスクの上に封筒に入れておく。そして私は家に帰るために立ち上がった。


 携帯のアラームで目が覚めて、私はメールの着信に気づいた。

『黒田さんに渡しておいたから。本当にご苦労様』

 コウからのメールを読んで、私はそっと安堵のため息をついた。そして私は高島君にメールをする。

『頼まれていた書類は貴社の顧問弁護士にすでに渡しました』

 これでこの仕事は終わりだと思っていた私は、これから起こる不測の事態を前に、のんびりとした気分を味わっていた。



「大河原君、ちょっと」
「はい?」

 あれから二日後、他の書類を作成していた私は佐々木主任に呼び出された。心なしか、佐々木主任の表情が硬い。

「どうしたんですか?」
「副所長が呼んでいるんだ。一緒に来てくれるかい」

 副所長が?

 私は佐々木主任について、三階のコンフェレンスルームに向かう。

「失礼します」

 コンフェレンスルームの中には、副所長、知らない男の人が二人、そしてコウと田中さんがいた。
 田中さんがいた時点で、私がこの前作成した書類についての話だと予想がついた。

「座りたまえ」

 田中さんの隣に座っている年配の男の人に言われ、私と佐々木主任は席に着いた。

「それじゃあ、君が抵当権の書類を作成した司法書士だね?」
「はい」

 灰汁の強そうなその人の顔、そして言葉はどこか高圧的だった。

「私は木島だ。君はうちの会社のプロジェクトが大切なもので、時間が押しているということを知っていたんだろう?」
「はい」

 何が起きたんだろうと思い、私はただうなずいていた。
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