マスカケ線に願いを
「それじゃあ、頼まれたその日のうちに仕事をしないとはどういう了見だ?」
「え?」
「君がすぐに書類を作成しなかったせいで、プロジェクトの日程が大幅に狂って、会社に大きな損害が出たんだぞ」
信じられない木島氏の言葉に、私は二の句を失う。
「二十四日の午前中に必要だったのに、それが届かなかったんだぞ? どうしてくれるんだ」
「……お言葉ですが、二十四日には書類は届けたはずです」
「ああ、うちの顧問弁護士が届けたらしい。が、その取引の現場に届かなかったら意味がないだろう。そもそも二十四日に必要な書類を当日に届けるとは、非常識にもほどがあるだろう」
私は眉をひそめる。
「お仕事を引き受けた時点で書類作成に取り掛かりたかったのはやまやまなのですが、そちらの代表取締役の印鑑証明書がなく、翌日には貴社の社員に連絡をしたのですが」
「こら、君、自分の不手際を他人のせいにするとは、司法書士のすることか?」
口を挟んだ副所長の言葉に、私はかっと頭に血が上る。しかしそれをぐっと堪え、傍目には冷静を貫く。
コウが、何か言いたげに私を見ていることには、最初から気づいていた。だけどコウが何かを言えば、この火種はコウにまで飛び火してしまう。
「すみません、副所長」
「なんだね」
佐々木主任が、控えめに口を挟んだ。
「大河原君は、うちの司法書士の中でも優秀で、今まで期日をやぶったことなどないんです」
「何が言いたいんだね、佐々木君」
「いえ……」
そこにふんっと鼻を鳴らした木島氏が口を挟んだ。
「とにかく、この責任は取ってもらうからな」
その一言で、私はこれから私がしなくてはいけないことを悟ってしまった。