マスカケ線に願いを
「杏奈ちゃん、でも……」
「気にしないでください。私一人が責任を取れば、済む問題なんですから」
理不尽でも、納得がいかなくても、それがこの社会のルールだから。
「……わかった」
身を切るような表情でうな垂れたコウを見て、私はいたたまれなくなった。
正義の味方であるはずの法律事務所。その中でこんな事態になるのが、悔しいのだろう。私だって、悔しいのだから。
「それじゃあ」
私は準備をするために、フロアに戻った。
辞表を提出するといっても、荷物も整理しなくてはいけないから明日もここに来ることになるだろう。
私は、今にも出てきそうになる涙をこらえ、涙腺を叱り飛ばした。
とにかく今は、途中の書類を終わらせなくちゃいけなかった。
その作り終わった書類とともに、私は辞表を佐々木主任に手渡した。
それを受け取る佐々木主任の顔は、たぶん一生忘れられないと思う。
家に帰った私は、着の身着のままベッドに飛び込んだ。
必死に理性で押さえつけていたはずのぐるぐると渦巻く感情に、吐き出しそうになる。
「……っ」
堪えていたものが、あふれ出てきた。
どうにもならないことが、悔しい。
これが本当に自分の責任だったら、私は納得できたのに。
「悔しい……っ」
どうにもできない自分にも、腹が立った。
これが自分だけのことだったならいくらでも立ち向かえたのに、他の人のことを考えると身を引くことしかできなかった。
悔しくて、仕方がなかった。こうして、一人で泣いている自分も。