マスカケ線に願いを
「……どうすれば、良かったの……?」
右手に走るマスカケ線。
いくら話しかけたって、答えてなんかくれるわけないのに。
「教えてよ……」
その手を強く、握り締めることしか、私にはできなかった。
「おかえりなさい」
「迎えはいいって言ったのに」
荷物を片手に苦笑するユズに、私はハグした。
「大河原さん、蓬君をお借りして悪かったね」
「いえ。所長も気をつけてください」
きっとまだ、所長も私が事務所を止めたことを知らないだろう。そもそも、私の自主退職扱いにされているはずだ。
「それじゃあ、失礼します」
「本当に助かったよ」
所長と別れて、私達はタクシーに乗り込んだ。
「あー、杏奈に会いたくて仕方なかった」
そう言って手を握ってくるユズの手を、私は握り返す。
「私も会いたかった」
本当に会いたかった。
ユズがすっと眼を細めて、私の耳元に顔を近づける。
「今日は、泊まっていけよ」
「うん」
私も最初からそのつもりだった。
ユズに、言わなくてはいけないことがあったから。
正直、ユズに何が起こったのかをうまく説明できる自信がない。
終わったことだから、気にしちゃいけないって説得する自信もない。
だけど、全部私の口から説明したかった。