マスカケ線に願いを

「今すぐ来い、阿呆」

 電話の相手が誰かわからなかったけれど、どうやら召集の電話らしい。
 そして怒っていることがわかるユズを無言で伺いながら、私は黙ってソファに座っていた。
 重たい沈黙の後、インターホンが鳴る。ユズは相手も確認せずに真っ直ぐ玄関に向かった。
 戻ってきたユズと一緒にいたのは、気まずそうな顔をしたコウと小夜さんだった。

「幸樹、お前がついていながらなんでこんなことになるんだよ!」

 リビングに入ったとたん、ユズが声を荒げる。

「わかってるよ、俺がどうにかしなきゃいけなかったって。だけど、杏奈ちゃんが……」
「待ってよ、ユズ。コウは悪くないっ」

 私が何もしないように頼んだのに。

「ふざけんなっ」

 咆哮のようなユズの声に、私達はびくりと身体を震わせた。だけどコウはむっとして言い返す。

「俺だってわかってんだよ、お前が何に怒ってんのか。俺だって悔しいし、むかつくよ。だからこれ持ってきたんじゃないか」

 そう言ったコウが鞄から書類用の茶封筒を取り出して、ユズに手渡した。ユズは唇を真一文字に結んだまま、その中の書類に目を通しだした。

「……これ、使えるんだろうな」
「ああ、使えるだろ」

 一通り眼を通したらしいユズが、幾分落ち着いた声でコウに訊ねる。

「あの、どういうこと? 何の書類なの?」

 話が読めず、私は訊ねた。するとそっと息を吐いたユズが、説明をしてくれた。
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