マスカケ線に願いを
「あの会社、もともとプロジェクトを遅滞する予定だったんだよ」
「……え?」
「期限までに納金しなくちゃいけなかったのは本当で、抵当権の書類も必要だった。ただ、あの会社はそのままプロジェクトが進んでしまったら困る状態にあったんだよ」
それは、どういう……?
「だけど、もし自分達の不手際でプロジェクトが遅滞したなんて言ったら、信用に関わると思ったんだろうな。だから、第三者のせいにすることにした」
少しずつ明らかになっていくあらすじに、ふつふつと、私の中の怒りが湧き上がっていた。
「会社の不手際じゃなくて、司法書士の不手際にして、言い訳をしようと思った。そこで予想外だったのは、杏奈が書類をそろえて提出したってこと。本当は、抵当権の書類が会社の元にあるっていう事実が公になれば、会社の責任になるだろ」
ユズの言葉に、私は言葉も出せない。
「杏奈をやめさせたかったのは、証拠を隠滅したかったんだろう」
あまりのことに、あまりの怒りに、私の目の前は真っ赤になっていた。
「それって、杏奈ちゃんが捨て駒にされたってことよね?」
小夜さんが、同じように怒りに満ちた顔で声を荒げる。
「杏奈ちゃんは、法律事務所の顔に泥を塗りたくないからって身を引いたわけだけど、話はそんな簡単なことじゃないぞ」
「法律事務所を馬鹿にした所業だ」
コウとユズが続ける。
そして、私の脳裏に浮かんだこと。
「……もしかして、副所長もグルなの?」
「おそらく、な」
「最悪」
本当に、最悪としか言いようがなかった。
大好きな法律事務所なのに、そんな権力の権化が棲んでただなんて。