マスカケ線に願いを
第八条 幸せをつかむべし
新しい生活
「杏奈ちゃん、これ運んでおくね」
「あ、ありがとうございます」
「忘れ物ないようにな」
何もかもが終わった次の日が休日ということで、まとめていた荷物を運び出すのに小夜さんとコウが手伝いに来てくれた。
トラックはユズの叔父さんのものを借りたらしい。
「男手二人でも大丈夫?」
「大丈夫」
冷蔵庫を運び出すのを見てひやひやした私は、結局管理人さんにも助けを求めた。
ユズが、あの一週間で何が起こったのか全部を話してくれた。
あの会社が文句を言ってこれないように全ての証拠を揃えたユズ達は、なんとあの時コウが録音していた木島氏の言葉を決定的証拠として取締役に聞かせたらしい。
そしてもちろんこれが上層部で問題になった。
そしてもう一つ、うちの事務所で副所長の言葉が問題となり、司法書士全員と弁護士全員の署名入りで、私の解職取り消しと副所長の退任を求めたらしい。
「全員、ですか?」
「ああ、全員だ。受付嬢も、みんな」
それを聞いたとき、私は意外だと思った。
「でも、私のこと良く思ってない人もいるのに……」
実際、太田さん達は私のことを良く思っていないはずなのに。
だけどユズは笑って首を横に振った。
「全員、だ」
「へえ」
そしてそのことが、私の心を明るくした。
そんなやり取りの後、私達は引越し準備に取り掛かったのだ。
一番大事な調理道具も運び出して、部屋がどんどん空っぽになっていく様子を見ながら、少し寂しいと思いながらも、どきどきした。
私の、新しい生活が始まるんだ。
私と、ユズの。