マスカケ線に願いを
大切なもの
「あれ、ユズは?」
お昼休みに小夜さんと久しぶりの屋上に行ったとき、そこにはコウの姿しかなかった。
「用事があるんだと」
「用事?」
朝、そんなことは何も言っていなかった。
「とにかく食べようぜ」
「はい、お弁当」
小夜さんがコウの分のお弁当を差し出す姿を見て、私は微笑んだ。最初こそ大分照れがあったみたいだけど、今では随分しっくりくる二人になった。
あの照れまくりで可愛らしい小夜さんを見れなくなったのは残念だけど、きっとそれはコウのためだけに見せる顔になったのだろう。
じっと見つめていたせいか、小夜さんが私の視線に気づいた。
「なに? じろじろ見ちゃって」
「いや、コウの話をするときに顔真っ赤にしてたのが懐かしいなって思って」
私がそう言うと、案の定小夜さんは顔を赤くさせて、慌てふためく。
「ちょ、そんなこと思い出さなくて良いでしょう? もうっ、杏奈ちゃん」
「あー、確かにあの頃は小夜、可愛かったよな」
コウまでからかうものだから、小夜さんはさらに赤くなる。
「ちょっと、それって今の私が可愛くないってこと?」
「今も小夜は可愛いよ」
にっこり笑ってそんな気障な台詞を吐くコウに、私は噴き出した。
「意外ですね、コウってそんな甘い台詞も吐くんだ」
「おうよ。甘々だぜ」
見た目とのギャップが強すぎて、私はお腹を抱えて笑ってしまう。
「笑うことないだろ」
「もしかしてそのノリで妹さんに話してたんじゃないですか? 鬱陶しく思われて当然ですよ」
「む」
そうやって笑いながらお弁当を食べて、そろそろお昼休みも終わりだというときになって、ユズが屋上にやってきた。