マスカケ線に願いを
「あ、ユズ」
「おう」
「ご飯は?」
「ちゃんと食べた。杏奈のお弁当残すわけないだろ」
笑いながらユズが私の隣に座った。
「どこ行ってたの? 仕事?」
「いや、ちょっと野暮用」
「へえ」
ユズと話していると視線を感じて、私はそちらを見た。案の定小夜さんとコウがまじまじと私を見ていた。
「なんですか?」
期せずして先ほどの小夜さんと同じ意味の言葉が洩れる。
「いやあ杏奈ちゃんも、蓬弁護士の前では柔らかい表情するなあって」
「本当。ユズが羨ましいぜ」
そんなことを言うから、コウは小夜さんに耳をつねられる羽目になる。
「もうっ、妹分と彼女とどっちが大切なのよ」
「俺のお姫様に決まってるだろうが」
「なっ」
コウの言葉で見る間に真っ赤になる小夜さんは、やっぱり可愛いと思った。
「なんだ、杏奈も俺のお姫様だろ?」
「ユズは私のナイトなんでしょう?」
そして私は可愛くないから、そうやって言い返してしまう。だけどそんな私をユズが可愛いと思っていてくれるから、私は私のままで良いんだと思えた。
こうして環境が変わると、改めて自分がいかに独りよがりに生きていたかを思い知らされる。
どうせ離れていくだけだと拒絶し、つりあわないからと目を閉じ、そして差し出されていた手を取ろうともしていなかった。