マスカケ線に願いを
願いの先
それは朝食の席でのことだった。
「杏奈、今週末仕事あるか?」
「え、ないけど」
私は最後にお味噌汁を飲みながら、疑問符を浮かべてユズを見た。
先に食べ終わったユズは少し困ったように切り出した。
「あー……うちの親に会ってくれないか?」
「えっ!?」
あまりのことに危うくお味噌汁を噴き出すところだった。
「お、親って……」
「あのな、詳しいことは帰ってきてから話す」
「う、うん。わかった」
私は空っぽになったお椀を置いて、緊張している心をごまかすように立ち上がった。
事務所に来たのはいいけれど、今朝のユズの言葉が気になって仕方ない。
そのせいで、私は少し上の空だった。
「……ゃん?」
だから、ぼんやりとしているときに声をかけられて私は飛び上がるほど驚いた。
「杏奈ちゃん?」
「さ、小夜さん……」
「どうしたの、ぼうっとして」
小夜さんは不思議そうに私を見ている。
「い、いえ」
「もうお昼だよ? 食べないの?」
「あ、食べます」
お弁当を持って立ち上がる私だけど、あまりにも挙動不審だ。