マスカケ線に願いを
「お袋な、孫が見たいってのが口癖で……」
「え」
「いやいや、杏奈が気にすることじゃないんだけど、杏奈に会わせたら元気になってくれるかな、と」
孫が見たい、って……すなわちそういうことだろう。
「えっと、私をなんて紹介する気?」
「そりゃ、今お付き合いしている人、だろ」
「そう、だよね」
そこにウェイターがテーブルに注文した料理を置いていく。
「まあ、杏奈が良いなら、将来結婚も考えてるって伝えたいけど」
ユズの言葉に、私はどきりとした。
「いや、杏奈は若いから、そんなこと気にしなくて良いんだ」
「……うん」
気にしなくて良いと言っているユズは、本当は気にしていることだと思う。
今は、一緒に暮らし始めて間もないけれど、時間が経ってからでは曖昧になってしまうことでもあるとおもう。
私はまだ二十三だけど、ユズはもう三十四歳。結婚して、子供がいてもおかしくない年だ。
かくいう私も、結婚を考えてもおかしくない年齢でもある。
ただユズは、仕事もしている私の意思を尊重してくれているんだろう。
でも私は……。
「……ユズ、私、ユズと一緒にいたいって思ってるよ。できたら、ずっと」
「杏奈……」
「ユズと付き合って、結婚を考えなかったわけじゃない」
私は、本当は願っている。
ユズと一緒になることを。
一生、この大切な人と一緒にいることを。
「今すぐにって、思ってるわけじゃないんだけど。いつかは、って思ってるよ」
私の言葉に、ユズは握ったフォークもそのままに硬直していた。そして、しばらくして破願した。