マスカケ線に願いを

「嬉しいこと言ってくれるんだな」
「本当のことだから」

 ずっと一緒にいたいという願いの先には、それしかないと思うから。
 ユズとなら、幸せをつかめる気がするから。

「だから、これ婚約指輪だと思ってもいい? いつか、って意味で」
「……選択ミスだった」
「え?」

 ユズがなんともいえない顔で唸る。

「家で食えばよかった。そしたら人目を気にせず……」
「ちょっとユズ!」
「そうと決まれば、さっさと食べて帰るぞ」

 そう言って勢い良く食べ始めたユズを見て、私は呆れを通り越して笑ってしまった。
 ユズの中で一体何がどう決まったのか容易く予想がつく。

「良く噛んで食べなよ。せっかくのお料理なんだし、私はゆっくり味わう気だから」
「俺は食後のデザートの方が楽しみなんだ」

 杏奈って名前のな、と小声でつぶやくユズは、本当に子供みたいで困ってしまう。
 だけどそんなユズが可愛くて、私は少し食べるスピードを速めた。


 その日家に帰って、極上の甘い時間をすごしたのは、私達だけの秘密。



 ユズの運転で隣の県の大学病院にやってきた。
 私は道中も始終緊張していて、運転しているユズが呆れるほどだった。
 病院について、車から降りた今は、言うまでもない。

「ほら、そんなに緊張するなって」
「で、でも、やっぱり緊張する……!」

 この世のどこに、緊張しない人がいるんだろう。
 嫁姑問題とか、巷でよく聞くし。
< 256 / 261 >

この作品をシェア

pagetop