マスカケ線に願いを
「嬉しいこと言ってくれるんだな」
「本当のことだから」
ずっと一緒にいたいという願いの先には、それしかないと思うから。
ユズとなら、幸せをつかめる気がするから。
「だから、これ婚約指輪だと思ってもいい? いつか、って意味で」
「……選択ミスだった」
「え?」
ユズがなんともいえない顔で唸る。
「家で食えばよかった。そしたら人目を気にせず……」
「ちょっとユズ!」
「そうと決まれば、さっさと食べて帰るぞ」
そう言って勢い良く食べ始めたユズを見て、私は呆れを通り越して笑ってしまった。
ユズの中で一体何がどう決まったのか容易く予想がつく。
「良く噛んで食べなよ。せっかくのお料理なんだし、私はゆっくり味わう気だから」
「俺は食後のデザートの方が楽しみなんだ」
杏奈って名前のな、と小声でつぶやくユズは、本当に子供みたいで困ってしまう。
だけどそんなユズが可愛くて、私は少し食べるスピードを速めた。
その日家に帰って、極上の甘い時間をすごしたのは、私達だけの秘密。
ユズの運転で隣の県の大学病院にやってきた。
私は道中も始終緊張していて、運転しているユズが呆れるほどだった。
病院について、車から降りた今は、言うまでもない。
「ほら、そんなに緊張するなって」
「で、でも、やっぱり緊張する……!」
この世のどこに、緊張しない人がいるんだろう。
嫁姑問題とか、巷でよく聞くし。