マスカケ線に願いを
「ああ、どうしようっ」
手土産にともってきたシュークリームも気に入ってもらえるかわからないし、とにかく私はひどく緊張していた。
「もう、俺のお姫様はしっかりしているわりに、危なっかしいんだから」
そう言って私の腰を抱き寄せるユズに、私は顔をしかめた。
「ちょっと、こんな密着して会いに行ったら、悪い印象与えちゃうっ」
「大丈夫だから。ほら、行くぞ」
「え、ちょっと、まだ心の準備が……」
私の腰を押すようにして、ユズは真っ直ぐ病室へと導いた。病室が近づくにつれ、私の口数は減っていく。
そして目的の病室の前に来た頃には、かちんこちんに硬直していた。
「ほら、入るぞ」
「えっ?」
無情にもユズは病室の扉をノックする。
「お袋?」
「あら、ゆず」
ベッドに座っていた女性が、こちらを見た。私はユズの背に隠れているので、彼女からは見えないらしい。
私の緊張は最大になり、音を立てて固まった。
「急にどうしたの?」
「ああ、紹介したい人がいるから連れてきた」
そう言ってユズが私をお母様の前に連れてきたときは、頭が真っ白になってしまった。
「大河原杏奈さん、俺の凄い大切な人。報告してなかったけど、一緒に暮らしてるんだ」
「あら、ゆずと……?」
「は、初めまして……!」
かちこちの身体で、びきばきと音を立てそうなギクシャクした動きで私は頭を下げた。ユズのお母様は興味深そうに私を見ていて、私は恐る恐るお母様を見た。
ユズのお母様は、ユズと目が似ていて、大人しそうな綺麗な人だった。
「ねえ、杏奈さん」
「はいっ?」
「ふふ、可愛らしい方ね。でもゆず、わがままでしょう? 貴方に迷惑をかけているんじゃない?」
本当に心配そうにそんなことを聞いてくるので私は首を横に振った。