マスカケ線に願いを
「良い年した息子の小学校時代の話なんて持ち出すなよ」
「あら、いつまで経っても子供は子供ですもの」
ふふっと笑うお母様は、本当に穏やかだった。
「杏奈さん」
「はい」
そんなお母様の雰囲気に、私も少し落ち着くことができる。
「ゆずのこと、よろしく頼みますね」
「いえ、こちらの方こそ」
頭を下げたお母様につられて、私も頭を下げる。
「今日はわざわざ病院まで来てくださってありがとう。ベッドの上からなんて失礼よね」
お母様はそう言って笑って目を細めた。その様子がユズにそっくりで、私は微笑んだ。
「でも、孫を見る日も近いと思うと、元気にならなくちゃいけないわね」
「そうだよ、お袋。元気になれよな」
「そうですよ」
お母様は本当に嬉しそうに笑ってうなずいたので、私は今日ここに来て本当に良かったと思った。
「ユズのお母様、凄く優しい人だったね」
「まあな。怒ると怖いんだけどな」
「え、想像できない」
帰りの車中、そんな会話をしていた。
「でも、お袋本当に嬉しそうだった。ありがとうな」
「え、私、何もしてないよ」
運転しているユズを見れば、目元が笑っていた。
「お袋、娘が欲しかったんだよな。でも、身体弱いから、何人も子供生むわけにはいかなくて」
「うん」
「それに息子は一向に嫁を取る気配もないし。半ば孫の顔は諦めてたと思うんだ」
身体が弱いから。
そのユズの言葉が、胸に突き刺さる。