マスカケ線に願いを
ユズとの一夜
「うまっ」
私が作ったのは簡単な煮込みうどん。
買い物の最中、ユズはカップヌードルでも良いから、早くできるものとリクエストしてきたので、それは料理じゃないと言い返した。
「杏奈は料理が上手なんだな」
「人並みにはできますよ」
本当に美味しそうに食べてくれるユズを、私はテーブルを挟んだ正面から眺めていた。
こうやって美味しそうに食べてくれると、作った甲斐があるというものだ。自然と私の顔に笑みが浮かぶ。
「意外に家庭的なんだな」
「意外って何ですか」
「いや、美人は家事ができないって思った」
私は呆れた。
「偏見ですよ」
「そうらしい」
私はユズの部屋を見渡してみた。
家具は黒を基調としていて、部屋の隅には本棚がある。そこにあるのは六法全書を始めとする法律関係の本だ。
「杏奈はなんであんなとこで落ち込んでたんだ?」
「えっ?」
ぼんやりと本棚を眺めていると、うどんをよそいなおしたユズに話しかけられた。
「今もそう。なんか、ぼうっとしてる」
ユズといると、話しかけられない限り一人でいるような錯覚に陥ってしまう。
それくらい、ユズは私に必要以上には干渉してこない。
話しかけてくると、ずばっと言われるけれども。