マスカケ線に願いを

「杏奈、帰る前に朝ごはん食べよう」
「……それって、一人で食べるの寂しいってやつですか?」
「当たり前だ。それに、杏奈と一緒の方が楽しいに決まってるだろ」

 ユズの言い分に、私は笑ってしまった。

「それじゃあ、用意しますね」
「おうよ」

 本当は邪魔にならないようにすぐに帰ろうと思っていたのだけど、ユズと一緒にいるのが心地よいのは本当だから、もう少しだけユズと一緒にいることにした。


 だけど、こんなふうに心地良い時間を過ごすと、不安になる。
 どうせ、今だけこういうふうに接してくれるんだと、卑屈になる。


 ぼうっとしながら朝食を用意すると、寝巻き姿のユズがじっと私の顔を見ていた。

「? 私の顔に何かついてます?」
「辛気臭い顔してる」
「人の顔捕まえて何てこと言うんですか」

 初めて会ったときも、久島弁護士に突っ込まれていたけど、ユズはストレートに物を言い過ぎる。
 でも、それが不思議と厭味に聞こえない。

「杏奈」

 名前を呼ばれて、私はユズを見た。

「なんです?」
「いや、呼んでみただけ」
「なんなんですか」

 意味のわからない行動に、私は笑ってしまう。

「事務所では、そういうふうに呼ばないでくださいよ?」

 ユズのことだから、一緒にいるのを見られるだけでも大騒ぎになりそうだ。
 職場で、ユズと久島弁護士の話をしていた同僚達のぎらぎらとした視線を思い出し、そっとため息をついた。
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